滋賀男声合唱団

Que tout l'enfer fuie au son de notre voix...




第 4 ステージ
男声合唱組曲「永久ニ」曲目解説


永久トコシナニ 演奏にあたって


私は 20 数年前、作曲家鈴木憲夫氏と知己を得ました。組曲「二度とない人生」のコーラスふじの花(京都)による初演発表のお手伝いが出会いでした。簡潔で優しさに満ちた氏の楽曲に「亡き中田喜直先生の継承者」と感銘を覚えました。しかし、その時に同時進行していたのが「永久ニ」と知った時の私の驚きは例えようもありません。この譜面を初めて目にしたとき「ストラヴィンスキーの再来か」と思ったのですから。「二度とない人生」とは対極の作風に、氏の創作の振幅の豊かさを知り、作曲家鈴木憲夫にすっかり魅せられてしまったのです。

そして今回初めてこの曲を指揮する機会を与えられました。冒頭は不協和音の呪文に始まります。西洋音楽史を学ぶと、洞窟の中での原始宗教の神聖な賛美の歌に、古代人は倍音を知り、ハーモニーの理論が生まれたとの記述を見ます。

まさにそのような祈りに続くのが、打楽器アンサンブルを彷彿させるピアノ、そして可変拍子(転拍子)や転調が複雑にまじりあって展開されます。また字霊を尊ぶという視点で選ばれた古語による詩も難解です。

鈴木憲夫氏は『第一曲「永久ニ」と第三曲「宇宙のもと」は日本書紀より言葉を探り、エネルギッシュでかつ厳かである作品を作り上げたかった。』と述べていらっしゃいます。

滋賀男声はこの鈴木氏の作品構想の再現に向けて、今までに経験したことない多くの課題に挑戦の連続でした。しかし練習を重ね少しずつ前に進むにつれ、徐々に古代から脈々と受け継がれている「自然界や神への感謝と畏怖」「人間の愛と生命の営み」という神聖な精神文化の領域に私たちは導かれたのでした。大地の鼓動を聞こうともせず、時には人間愛を希薄にしてまでも、科学技術の発展を追い求めてきた物質文明。

そしてそれにどっぷり浸かっている現代の私たち。

その結実が残虐非道なウクライナ紛争であり、国家存亡の危機に直面する少子化問題などとするならば、今こそ、神代へ時空を超えて、人間本来の愛と生に思いを馳せる時ではないかという警鐘のメッセージが聞こえてきたのです。

この作品の第2曲目で鈴木氏は何度も次の言葉を用います。「母は平和を祈り、子は未来を夢見る」まさに魂は継がれ、今を生き続ける私たちの内にあり続ける、そして次の世代に受け継がれていく魂・・・。このような壮大なテーマに果敢に向かい合う団員お一人お一人の姿をどうか脳裏に焼き付けてください。

それはまさに魂から魂への伝承の瞬間なのですから。そして表現者としての努力に惜しみない拍手を頂ければ幸いです。

この曲を作曲された鈴木憲夫先生、そして制作の諏訪合唱団と指揮者宮下荘治郎先生、団長の岡野貞夫さんに感謝です。インターナショナルに誇れる素晴らしい邦人作品を世に残してくださったことに心からの賛辞を贈ります。


富岡 健



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