滋賀男声合唱団

Que tout l'enfer fuie au son de notre voix...


合唱による風土記「阿波」の話
〜その 2〜



1. たいしめ(鯛締)


 阿波の入口ともいえる鳴門の鯛は、激しい潮流にもまれて、その美味たるや天下一品と言われています。かつては一網で数百、数千尾を獲ることが出来たそうです。

鯛締とは、鯛網を引くことであり同時に豊漁への祝唄でもあります。各所で唄われるソロはそれを表しています。また、一説には獲りたての鯛を荒塩と酢で締め、酒を酌み交わして大漁を祝ったとも言われています。


うれしめでたの 若松さまは
枝が栄えりゃ 葉も茂る
岬鼻から 戻ろうとすれば
鯛やサワラが 呼び戻す
貯めた貯めたがよ この網ゃ貯めた
磯の藻綿で 又貯めた


 いきなり山形地方の「花笠音頭」の歌詞をもじって始まるこの曲は、「ダシタナ」「キリワイエーホ」「ヤレコラー」「ヨーイサヨイサア」などの掛け声と一体となりこの組曲の初曲にふさわしい盛り上がりを見せます。



2. 麦打ち


 麦打ちは刈り取った麦を脱穀する様を主題としています。「ヨーオイヨオオイ」という掛け声は、前半が振り上げ、後半が打ち下ろしの様を表します。

「ヨホホー」は山鳥の鳴き声を模したもので、ファルセットまたはそれに似た発声で歌われます。

その歌詞は男女の会いたい心情を山鳥や鐘の音に託して歌ったものです。


山で山鳥ゃ尾は長けれど
しのぶその夜の短かさよ
山が暮れても山鳥ゃ飛ばぬ
可愛い我が子に魅(ひ)かされて
鐘がゴンと鳴りゃはよいのいのと
ここは寺町何時も鳴る



3. もちつき(餅搗)


 吉野川の中流域にある農村では、祝い事の度に餅を搗いて配る風習があります。

歌詞はその時のお囃しの文句で、祝儀のある家を褒めちぎり、「富貴」「冥加」「鶴亀」などといった縁起の良い言葉をかけています。「ドンタントン・・・・」は餅の搗き手の擬音で、最初はゆっくり始められ、そして餅が搗き上がり気分が高揚するにつれて加速し、「ゴシャシャノシャンシャン」と手締めで最後が締めくくられます。


旦那大黒奥さん恵比寿(えべす)
ひとりある子の福の神
御所のお庭で扇を拾て
扇めでたい末繁盛
裏へ出て見りゃ茗荷や蕗が
冥加めでたい富貴繁盛
伊勢へ七度熊野に三度
若戸様へふきまいり  (愛宕さまには月参りの誤伝と考えられます)
世治まる思ったなのさ
末は鶴亀五葉の松
一石二石三国一の
餅搗きゃすました
ゴシャシャンノシャンシャン



水取り


 「水取り」は藍の栽培では必須の水やりのため、井戸から「はねつるべ」で水を汲んできて畑にやる作業で、苦しい藍栽培の中でも単調できつい労働だったと思われます。

この作品の基となった「水取り唄」はある老婆の声から作曲者によって採譜されました。

旋律線はくずれ果てていましたが、作曲者により作為的にデフォルメされ普通の民謡の旋法からはみ出しています。

トップテノールのファルセットは老婆の若かりし頃の過酷な労働の訴えに満ち、二番のバリトンの旋律は老爺の若かりし頃の回顧でしょうか、いささかエッチな要素が加わり、気分を作業の他に向けている様子が出ています。


山鳥ゃ子にこそ迷え
たち別れまいこの森を
じわじわと突っこめや
早や持ち上げる
さても具合なはねつるべ



たたら(踏鞴)


 昼の野良仕事を終えた農民たちには、その季節に応じた数々の夜の仕事が残されています。農村の自家製鉄「たたら」もその苦役の一つでした。

最終曲の「たたら(踏鞴)」は「鞴(ふいご)」を踏む労働の様子を、鎮守の掛け声から始まり、鞴を踏む呼吸を合わせて鉄を溶かす炉の火の高さを競う事や、一生懸命な労働に酒手を望む心持を歌いあげています。徳島県下に残る幾つかの「たたら節」「たたら音頭」の中から言葉のみを断片的に選び出し、想像のリズム、想像の旋律によってあたかも原始宗教の儀式のように構成されています。

男声合唱のみがこのような汗と脂の渦巻く労働に密着する可能性を持ち得ると作曲者は考えています。


<東西東西東西南北鎮まりたまえ>
エイエイサッサエイサッサ
ヤットサッサエイサッサ
ヨウそれ踏めやそれ踏めや
<親方酒手はどうじゃいどうじゃい>
そんなら踏め踏めヤッシッシ
色はちっくり黒てもままよ
人に好かれる笑顔よし
<黄金は世界の惚れ薬>
いつも無理に頭布をかむり
家で遊びをするよりは
たたら踏むのが面白い
エイエイサッサエイサッサ
ヤットサッサエイサッサ
ヤットコセヨイヤナ
コレワイセさあさ何でもせ



(北澤澄男)


参考文献
合唱による風土記「阿波」楽譜 解説記事 音楽之友社版
Web
Wikipedia (三木 稔) 他




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