滋賀男声合唱団

Que tout l'enfer fuie au son de notre voix...


男声合唱曲集「ほほえみ」によせて 2


富岡 健



私は当初、鈴木憲夫氏の合唱曲集「ほほえみ」を、先生が奥様にささげた一周忌供養詩集「美智子経」から抜粋した語りと合唱によるステージと考えていました。

しかし、今回の演奏会では「学生王子」とおなじ演奏形式となるため、この案は見送りとなりました。この場をお借りして、私が計画していた朗読個所の一部をご紹介できることをうれしく思います。

10 月 22 日の京都コンサートホールでの鈴木憲夫氏による合唱講座で、このように仰いました。


『作曲する前に、私は何度も何度も詩を口に出して読みます。詩の情感も、詩の背景も自分が納得して言い表せるまで。そしてそれを音符に置き換えます。
でも音符は所詮記号でしかありません。私の思いも詩情も五線譜の記号では書き表わせません。それが歯がゆいのです。』


音符は記号でしかない・・・。演奏者として気の引き締まる思いでした。


みち

 川越線「南小谷駅」から
 病院へと続く線路脇の小みち
 そのみちは
 君に会いに行くためのみち
 君に「おやすみ」を言って帰るみち
 時に
 希望を奮い立たせ
 奇跡を信じようとし
 苦しみを噛んで歩いたみち
 いまはもうたどることのないみち
でも
 今一度
 たった一度でもいいから
 君に会いに行きたいみち

第 1 曲 ふるさとの木の葉の駅



この間

この間テレビが壊れた
その大きなテレビがわが家に来た日二人で歓声を上げたものだ
この間急須が壊れた
縁が欠けながらも長年愛用したものだった
この間お茶碗が壊れた
その茶碗は二人で銀座まで買いに行ったものだ
この間きれいに折りたたんだアイロンのかかったハンカチを使った
もしかして彼女の最後の家事だったかもしれない
この間・・・この間・・・
病室で彼女が最後まで履いていたスリッパが壊れた
それを普段用として私が使っていたものだった
さすがに捨てる気になれず下駄箱にしまいこんだ
ひとつひとつ彼女に別れを告げるように
二人の想い出の品が消えていく
これからいったい
幾度
別れをいわなければならないのだろう
彼女の手のぬくもりにあった
もの言わぬ品々に

第 4 曲 ひとひらの花びら



追悼 美智子へ

あの貧しい日々
それでも君の笑い声が聞こえてきた
私自身己のみちさえまだ判らず彷徨っていた日々
そんな中でも君はひたすら私を信じていた

「誰もみたことのない世界を見せてやるから」と
こんな私の甘いプロポーズで始まった私たちの生活
はたして君がみたものは
苦しくて辛いことばかりだったにちがいない

でもそんな中で生まれた歌は
今日本中で歌われている

君がいなくなり何もかもが虚ろに思えた時
私の音楽に心を寄せてくれる多くの人たちに
本当に多くの人たちに
私はどれだけ励まされたことか

私の歌が響く時
そこに君が居ることを
みな知っている
それらは君と一緒に紡いだ歌だ
まだ終わっていない

私の生きているかぎり
君と私の道は・・・
おわることはない

第 6 曲 ほほえみ



(これらの詩の掲載は、鈴木憲夫先生にご了解いただいたものです。)
滋賀男声合唱団 HP 編集委員会