Que tout l'enfer fuie au son de notre voix...
私が鈴木先生の曲集「ほほえみ」を滋賀男声合唱団の 2009 年のレパートリーにと提案したときの、メンバーの戸惑いは私の予想を超えたものでした。その主な理由は「女声合唱のための作品」という強い先入観からでした。
初練習のとき私はこのようなメッセージを皆さんに伝えました。
鈴木憲夫さんとは、組曲「二度とない人生だから」そして「ふるさとの木の葉の駅」の初演に携わった関係で、それ以来、同世代ということもあって個人的にも親しくお付き合いいただいています。
鈴木憲夫さんはまだ若い奥様(享年53歳)を天に見送った一年後にエッセイ集「美智子経」を私に届けてくださいました。
そこには生前のお二人の深い夫婦愛、奥様への感謝の言葉、そしてお独りになってからの虚無な生活空間や心情が綴られており、私は涙なしに読み進めることは出来ませんでした。
私はこの本を通して鈴木憲夫の作曲活動、いや人生そのものが全て奥様の愛によって支えられていたことを知りました。
その本にはこう書かれています。
「『・・・私の歌が鳴り響く時 そこに君がいることを みな知っている
それらは 君と一緒に 紡いだ歌だ・・・』
私はこの作品をわれわれ男どもの日常の日々を何気なくそっと支えてくれている連れ合いに、普段は口に出来ない感謝のメッセージを添えて歌い届けたいと考えています。」 と。
練習を進めるうちに、皆さんはこの曲集のそれぞれの曲に個々の思いをのせて歌ってくださるようになりました。あるメンバーは歌うことを止め、静かに聞き入っていらっしゃる。
つい最近愛妻をなくされたとのことでした。天国の奥様とお話なさっているかのようでした。
「傷ついた 僕の心から 棘を抜いてくれたのは お前の心の あどけないほほえみだ
そして、他愛もない おまえの心の おしゃべりだ」 (第2曲目「朝に」 立原道造詩)
作曲家としてだけでなく詩人としても豊かな才能を持つ鈴木憲夫がこの詩を選び、これに曲をつけたことは、「男」としての思いを共有できると考えたからにほかありません。決して女声合唱だけの作品ではない証がここにもみえるのです。
この組曲を通してメンバーお一人お一人と共に、人との出会いの縁に感謝し、一人称の音楽として、鈴木憲夫の優しさと慈悲の音楽を作ろうと願っています。
組曲「二度とない人生だから」そして「ふるさとの木の葉の駅」の初演ピアニストである丸山千晶さんのご共演にも感謝です。
Made in RapidWeaver